DAZZLE 第八回公演「二重ノ裁ク者」
長谷川達也×林ゆうき対談インタビュー<WEB版>
※こちらのインタビューは当日パンフレットにてフルバージョンにてお読み頂けます。
--- 以前、長谷川さんが楽曲の発注をされる時に、いろんな映画のサントラなど既存の曲を何十曲も送ってイメージを伝えるとおっしゃっていましたが、そのスタイルは今回も変わらず?
長谷川:そうですね。イメージ通りの曲を創ってもらうためにどうすればいいかを考えた時に、依頼者である僕がどれだけ明確な道筋、雰囲気やタイミングを指示できるかどうかにかかってくると思うんです。それを曖昧に伝えてしまうと、狙いと異なったものになってしまう可能性が大きくなりますし、そこから再度お互いのイメージをすり合わせていく作業は双方にとってダメージがある。なので、その時間を極力作りたくないんです。
林:DAZZLEの前の公演ふたつ(「Re:d」「SHADOW GAME」)はほとんど僕1人でやらせてもらったんですが、去年のASTERISK※と今回は、僕が音楽プロデュースという大きめの枠で、制作を手伝ってくれているクリエイターが何人かいる形で行っています。
※ASTERISK
2013年5月に東京国際フォーラムで行われ話題を呼んだ今までにないストリートダンス × ストーリーの融合舞台。長谷川氏演出、林氏音楽総合プロデュースを務めた。2014年5月にASTERISKの再演が決定している。
今までのように、音楽を創るのが僕1人だったら、何回か達也さんと創っているので、「この曲のこんな感じ」と言われればなんとなくわかるんですが、今回は、僕以外のクリエイターが達也さんの説明文を理解しながら創っていくので、なかなか難しいというか、その辺が作曲家としても大事なところで、センスが問われます。僕と達也さんはちょうど波長が合ったというか、わかり合いやすかったんですけど。
DAZZLEの作品はすごく物語化しているので、サントラを創るのとあまり変わらないんです。新体操で使われる伴奏曲って、クラッシックを使うと思う人が多いと思いますが、4つ打ちのものだったり、ダンスビートの強めのものだったり、クラシカルなものをアレンジしたりしていて、結構幅が広いんです。
DAZZLEの作品は、それがすごく近しいなと思いました。すごくダンスダンスした曲を頼まれるのかなと思ったら、全然そうじゃなかったから、「これならたぶんやりやすいな。」と思いました。
長谷川:実際、以前から映画のサウンドトラックで振付をしていたんですよ。サントラは画に合わせて、役者の感情に合わせて曲が展開するから、突然暗くなったり明るくなったりと起伏が激しく、踊りをそれに合わせていくのがすごく面白かった。4つ打ちのリズムもいいけど、こういったドラマに合わせた音楽で踊るのが物語を意識した作風のDAZZLEには合っていたんです。
ただ、既存の曲だと権利の問題があるから、ダンスは作品として権利を主張することができないんです。基本的には他人の作った芸術の上で踊っているわけですからね。せっかく作った作品を、ステージで踊って終わり。それが、すごくもったいなくて嫌だなと思っていました。ダンスはその刹那性が魅力でもあるかもしれませんが、それ以降誰も見ることができなくなってしまうのはすごく残念。そうじゃなくて、楽曲もオリジナルで創って、それをちゃんと“自分たちの作品”として残せるようにしたかったんです。
だからこそ、僕の人生にとって作曲家林ゆうきとの出会いは幸運だったと言えます。新体操で使ってる音楽や流れは、DAZZLEで振付したいと思う音楽と見事にマッチするんですね。新体操の演目はひとつの作品の中に起承転結がありますし、林くんは実際に演技の経験をされているで、肉体的な表現にも精通している。その経験がDAZZLEの音楽に活きているんです。身体表現を音楽でいかに作り上げていくか、という点で話ができる作曲家はなかなかいないですよね。出会えて良かったと本当にそう思います。
DAZZLEは比較的ダークな作風のダンスカンパニーですが、その表現を選ぶのには僕なりにわけがあります。それは一つに独自性の追求の過程でもあるし、また感情や感性の幅を広げたいと思うからです。もちろん個人的好み、ということもありますが、スリル、ファンタジー、そしてドラマを作品に含めることで、人間の持つ感情の複雑さをより深く描きたいと思うからなんです。
今回の物語は過去作品中、最も重い内容です。その点において作品の評価には多少なりとも心配はあります。ただ、現実には罪とされるようなできごとも、芸術はそれを表現することが許されます。作品を通じて擬似的にでもそれを感じることは、必ずしもマイナスであるとは思いません。例えば、たくさん笑うことのできる作品に価値を感じるなら、たくさん憤りを感じる作品だって同等の価値がある。
それが楽しいのか、怖いのか、などの違いはあれど、感情の振り幅としては同じ。ただ一方向の感情だけが特化しても、その感覚はどんどん鈍くなって、やがて不感になってしまいます。極端ではありますが、様々な感情を得たり、知ることは結果的に心を豊かにすることに繋がると思っているんですね。
だからこそダークに、とか、人間の負に目を背けるな、とかそういったことを言いたいわけでは決してないんだけど、喜怒哀楽は人間に与えられた特殊能力です。それはときに負の感情でさえも、正を感じるために必要なものであることは誰にも否定できないですよね。僕は作品を通じて様々な感情を呼び起こしたいと思います。それもまた芸術の力だと思うから。
長谷川:DAZZLEというカンパニーを率いる身として僕が取り組んでいることは、とにかくいい作品を創るためにできることを妥協しないことです。DAZZLEは作品がすべて。だから、僕は演出家として、想像力、作品力、演出力を常に磨いていかなければいけません。僕が妥協しちゃうとダメ、DAZZLEは崩壊しますからね(笑)。
僕の人生の夢は、いつかDAZZLEで成功したと思える瞬間を、みんなと共にわかち合いたい、それだけなんですよね。何を持って成功なのか、大金を得ることかもしれないし、名誉を手にすることかもしれない。それがなんであれ「俺たち、やったな」と思える瞬間を共有したい。そのためにはメンバーの一人一人がそれぞれの想いを込めてDAZZLEを創り上げたという意識をもてなければいけません。そういった環境を作っていけるようにするのも、僕の役目なんだと思います。
--- 観客の皆さんの中には、きっとお二人が今後見据えていくものに興味があると思うのですが、演出家として、作曲家としてどういった展望をお持ちですか??
長谷川:僕が求める理想は、先ほども言ったように、みんなと成功を分かち合うことなんですけど、そのためにもより多くの人に観てもらうというのはまず前提にあります。
それは国内外問わず、様々な土地で表現することや、一つの作品のロングラン公演など、DAZZLEの舞台が優れた表現として認めてもらえるような、そんな作品を創りたいです。そして、願わくば「日本を代表する舞台作品だ」と語り継がれるような絶対的作品を目指しています。
いろんなことに興味はあるので、演出家としてもっといろんな舞台を演出してみたいですし、いつか映画も撮ってみたいです。
今までDAZZLEとして活動してきて、「こうなったらいいね。」と思うことは叶えてきました。でも目標は尽きない。作品を創るモチベーションがなくならないんです。それがなくなるまではずっと作品を創り続けると思います。
林:僕は、新体操のための音楽を創っていた時、「死ぬまでにサウンドトラックを1枚でも創れたらいいな。」と思っていて、でも、さっき達也さんも言ってたみたいに、やりたいと思っていたことを、今も順に叶えてる途中といった感じです。
おかげさまで今はドラマ、アニメ、映画などの楽曲制作をやらせてもらってますが、もともと僕は新体操とか人が踊るのに音楽をつけてきて、その画と音楽が一緒になった時に、プラス(+)じゃなくて掛ける(×)になる瞬間を創れるのがすごく楽しくて音楽をはじめました。なので、ダンスの音楽を創ることは自分のやりたいことだし、DAZZLEさんみたいなすごいチームの音楽を創らせてもらっているし、やはり、そこが自分の音楽をはじめた原点なので、大事にしたいなと思っています。
今後もやりたいこととしては、もちろんいっぱいありますが、その時その時で、自分を必要としてくる人がいて、それに自分がやっている一番力を入れている“音楽”が、お手伝いできることなんだったら、それを僕は全力でするだけです。
それをいっぱいやれば、ライフワークとしてそれが足跡になって、死ぬ時に振り返ると、足跡がたくさん観られるわけですから、それを観て「わ!やった!」となりたいですね。
--- 今回の作品に乗せた想いや、見所、お客様にメッセージをお願いします。
林:今回は音楽プロデュースということでやらせてもらってるんですけど、DAZZLEさんの作品、達也さんの脚本は本当にすごいと思うんです。
それをやらせてもらってること自体がありがたいことで、ドラマよりも映画寄りというか、大きな世界観のものを創られるので、僕ができるのは、それにちょっと味付けをしたりとか、より感情的できるように手助けをすることです。だから、達也さんやDAZZLEさんの表現したいものを豪華に見せるというか・・・パセリのような、海苔のような感じでやらせてもらってるんですけど(笑)。
長谷川:いやいやいや(笑)。
林:でも、ほぼほぼ完成された作品なので、それで、お客様によりよく伝われば十分だと思っていて。
あと、今回は特に色濃くする曲は多くなくて、世界観をしっとり包むような感じに全体の色合いを持っていこうと思っているので、そういう意味でも今回は全体的に渋いと思います。
長谷川:本当はもっと渋くやってもいいかなと思っていたんですが、それはちょっと自分に走り過ぎになる気がしてやめました。今回も様々な楽曲の様々な特色が散りばめられているので、それらが物語、ダンスと相まって非常に素晴らしい展開になっています。
そしていつの日か、もっと徹底的にシンプルにしたものもどこかでやってみたいなと思ってます。
長谷川:今回は見所が盛り沢山で、この公演はDAZZLEでは、7作品目。一度再演を挟んでいるので、第8回公演になるんですけど、僕個人的な手応えで言うと、今までで一番あるんです。というのは、一番創るのが苦しかったから。
今回は脚本も僕が大体書かせてもらっていて、それを含め演出を考えていく中、過去6作品を超えるアイデア、やってないことをやるというのは・・・もうね、まったくもって思いつかない。アイデアが枯渇してしまっているんです。だから、途中で諦めました(笑)。新しいものは、もう出ないなって。
だから、過去のものから発想を膨らませたり、磨き上げるなど、一度使用したアイテムだけどもっと工夫しようとか、そういうことを積み重ねていったら、様々なバリエーションで魅力的なシーンが次々とできあがっていったんです。
気がつけば今公演で使用しているアイテムは10種類以上。世界広しと言えど、ここまで様々なアイテムや制限の中で振付を作れる団体はそういないのではと自負しています。もちろんDAZZLEならでは独特な美意識、世界感も健在です。
そして、今回はあえて曲の長さを短く、展開を速くしています。そうすることでより物語に浸ることができると思いました。シーンを細分化したことで、演出面での舞台展開もすごく緻密に計算されています。流れを切らず多くの背景を作れるかどうか、その点で演出的な手応えも感じています。
楽曲はもちろんのこと、今回は音響の設備にも注目すべきところ。通常ダンス公演では、完全パッケージされた音源を調整する程度かと思うんですが、今回我々の音響は各曲、各楽器を細かく分けたうえ、会場で調整できるよう設定しているので、音響空間の作り方が段違いです。これは日本のダンスカンパニーでは初の試みだと思います。
あとは・・・
<続きは、当日パンフレットで!>